2024年の韓国ドラマ界は、まさに熱狂と変革が交差した一年でした。私が特に注目したのは、記録的な大ヒット作が生まれる一方で、制作業界が構造的な課題に直面するという二面性です。
『涙の女王』のような王道の大作が圧倒的な強さを見せつける傍ら、『ソンジェ背負って走れ』のような口コミから世界的ブームになる作品も登場しました。この記事では、2024年を彩った人気韓国ドラマを、視聴率や口コミ、ジャンル別のトレンドから徹底的に分析し、ランキング形式でその魅力に迫ります。

2024年を象徴する2大巨頭|『涙の女王』と『ソンジェ背負って走れ』
2024年の韓国ドラマシーンは、この二つの作品を語らずしては始まりません。それぞれが異なる形で成功を収め、文化的現象にまでなった作品です。
『涙の女王』|王道が打ち立てた揺るぎない金字塔
『涙の女王』は、2024年最高の「お茶の間ドラマ」の力を証明した作品です。最終話の視聴率は24.9%を記録し、これまで不動の1位だった『愛の不時着』を抜いて放送局tvNの歴代視聴率トップに輝きました。
この歴史的な成功は、ヒットメーカーの脚本家と監督、そしてキム・スヒョンとキム・ジウォンというトップスターの共演によって、放送前から約束されていたようなものです。私が感銘を受けたのは、財閥令嬢と平社員の格差恋愛という王道の設定に、結婚3年目の夫婦の危機と余命宣告という深みのあるテーマを織り交ぜた点です。
単なるラブコメディに留まらず、家族の絆や生と死について考えさせられる重厚な物語が、多くの視聴者の心を掴みました。キム・スヒョンとキム・ジウォンが見せた圧巻の演技は、間違いなく本作を傑作へと昇華させた最大の要因です。
『ソンジェ背負って走れ』|口コミで世界を席巻した奇跡の作品
『涙の女王』が王者の風格を見せつけたとすれば、『ソンジェ背負って走れ』は全く新しいヒットの形を提示しました。放送当初は大きな注目を集めていたわけではありませんでしたが、視聴者の熱烈な口コミがSNSを通じて爆発的に拡散し、社会現象と言えるほどの「シンドローム」を巻き起こしたのです。
この熱狂はデータにも表れており、TV-OTT統合話題性調査では何週間も1位を独走し、動画配信サービスU-NEXTを通じて世界130カ国で視聴ランキング1位を獲得しました。私が思うに、このドラマの成功の核心は、単なるタイムスリップ・ロマンスではない「相互救済」の物語構造にあります。
愛する人を救うためのヒロインの奮闘が、実は互いの魂を救い合う物語であったという展開は、視聴者に深い感動を与えました。主演のピョン・ウソクとキム・ヘユンの間に生まれた奇跡的な化学反応が、この物語に永遠の命を吹き込みました。
【ジャンル別】2024年韓国ドラマのトレンドと必見作
2024年は2大ヒット作以外にも、様々なジャンルで質の高い作品が豊作でした。私が特に注目したトレンドと、見逃せない作品たちを紹介します。
作品名 | ジャンル | 主要キャスト | 配信プラットフォーム | 特記事項 |
涙の女王 | ロマンス、コメディ | キム・スヒョン、キム・ジウォン | Netflix | tvN歴代最高視聴率(24.9%)を記録 |
ソンジェ背負って走れ | タイムスリップ、ロマンス | ピョン・ウソク、キム・ヘユン | U-NEXT | 世界的なシンドロームを巻き起こしたダークホース |
私の夫と結婚して | 復讐、回帰転生 | パク・ミニョン、ナ・イヌ | Amazon Prime Video | ウェブトゥーン原作。痛快な復讐劇が話題に |
ジョンニョン~スター誕生 | 時代劇、ヒューマン | キム・テリ、シン・イェウン | Disney+ | 1950年代の女性国劇団が舞台。批評家から絶賛 |
殺し屋たちの店 | アクション、スリラー | イ・ドンウク、キム・ヘジュン | Disney+ | スタイリッシュなアクションとミステリーが融合 |
ヒーローではないけれど | ファンタジー、ロマンス | チャン・ギヨン、チョン・ウヒ | Netflix | 現代病で能力を失った超能力一家の再生の物語 |
Mr.プランクトン | ヒューマン、ロマンス | ウ・ドファン、イ・ユミ | Netflix | ロードムービー形式の隠れた名作 |
ピラミッドゲーム | 学園、スリラー | ボナ、チャン・ダア | TVING (韓国) | 校内カースト制度を描いた衝撃作 |
進化する復讐劇|『私の夫と結婚して』の痛快なカタルシス
年の初めに旋風を巻き起こしたのが『私の夫と結婚して』です。夫と親友に裏切られた主人公が過去に戻り、運命を変えるために壮絶な復讐を繰り広げるこの物語は、多くの視聴者に強烈なカタルシスを与えました。
ウェブトゥーンを原作とする本作の魅力は、未来の知識を活かして自分を陥れた者たちに逆襲する、いわゆる「サイダードラマ(炭酸飲料のようにスカッとするドラマ)」としての爽快感です。この痛快な展開がAmazon Prime Videoを通じて世界中で支持され、一気見する人が続出しました。
女性たちの物語|芸術性で高い評価を得た『ジョンニョン~スター誕生』
2024年、批評家から最も高い評価を受けた作品の一つが『ジョンニョン~スター誕生』です。1950年代の「女性国劇」という馴染みの薄い世界を舞台に、夢を追う女性たちの連帯と葛藤を力強く描きました。
私が特に心を打たれたのは、主演キム・テリの圧巻の演技です。彼女は役作りのために3年間も韓国の伝統芸能パンソリを習得し、劇中の歌唱シーンを自ら演じきりました。その迫真の演技が物語に圧倒的な説得力を与え、芸術性の高い傑作として語り継がれる作品になっています。
OTT時代のスリラー|映画的クオリティの『殺し屋たちの店』と『誰もいない森の奥で』
動画配信サービスOTTの特性を活かした、映画のようなクオリティのスリラーも豊作でした。Disney+の『殺し屋たちの店』は、スタイリッシュな銃撃戦とミステリアスなストーリー展開で視聴者を釘付けにしました。
一方で、Netflixの『誰もいない森の奥で木は音もなく倒れる』は、静かな映像美の中に人間の狂気が渦巻く、重厚な心理サスペンスです。これら二つの作品は、OTT時代ならではの表現の自由度と高い制作レベルを象徴しています。
心に響く隠れた名作|『ヒーローではないけれど』と『Mr.プランクトン』
ファンタジーの設定を用いて現代人の悩みに寄り添う、ヒーリングドラマも印象的でした。『ヒーローではないけれど』は、うつ病や肥満といった「現代病」で超能力を失った家族の再生を描く、ユニークで心温まる物語です。
『Mr.プランクトン』は、自分のルーツを探す旅に出る青年の姿を描いたロードムービー形式のドラマで、人生の意味を問いかけます。これらの作品は、派手さはないものの、その独創性と深い人間描写から「隠れた名作」として多くのドラマファンの心に残りました。
2024年韓国ドラマ|知っておきたい産業の裏側
2024年のヒット作を理解するためには、その背景にある産業構造の変化を知ることが重要です。華やかな世界の裏で、韓国ドラマ界は大きな転換点を迎えています。
ウェブトゥーン原作ブームの光と影
『私の夫と結婚して』を筆頭に、2024年もウェブトゥーン原作のドラマが大ヒットしました。すでにファンがいる物語を原作にすることで、制作のリスクを減らせるという利点があります。
しかし、私が少し懸念しているのは、この流れが加速しすぎることです。ウェブトゥーン原作への依存度が高まると、オリジナル脚本の企画が通りにくくなり、物語の多様性が失われる危険性もはらんでいます。
OTT戦国時代|プラットフォームごとの戦略
グローバルな動画配信サービスの競争は、ドラマの制作地図を大きく変えました。各社は独自の戦略で差別化を図っています。
- Netflix|圧倒的な物量と多様性で市場をリード。『涙の女王』のような話題作の配信権を確保しつつ、多彩なオリジナル作品を投入しています。
- Disney+|「選択と集中」の戦略で、『ジョンニョン~スター誕生』のような批評的評価の高い作品を配信し、ブランドイメージを高めています。
- U-NEXT|日本のプラットフォームでありながら『ソンジェ背負って走れ』の独占配信で大成功。優れた作品を見抜く目利きが光りました。
華やかな世界の裏側|制作費高騰という深刻な問題
世界的な成功の裏で、制作現場は俳優の出演料高騰という深刻な問題に直面しています。その結果、ドラマの制作本数はピーク時の半分以下にまで減少しました。
制作費の多くが一部のトップスターに集中し、中規模の作品や新人俳優を起用した挑戦的な企画が減っています。この「二極化」は、韓国ドラマ産業の持続可能性を揺るがす大きな課題です。
まとめ
2024年の韓国ドラマは、歴史的な視聴率を記録した『涙の女王』、世界的な口コミで奇跡を起こした『ソンジェ背負って走れ』という二つの傑作に象徴される、非常に実り豊かな一年でした。復讐劇からヒューマンドラマまで、各ジャンルで革新的な作品が生まれ、その表現の幅を広げ続けています。
その一方で、制作費の高騰という構造的な課題も浮き彫りになりました。この栄光と課題が同居する状況こそが、2024年の韓国ドラマ界を最もよく表しています。これから韓国ドラマがどのような答えを見つけていくのか、その動向から目が離せません。